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ドメイン名関連会議報告

2020年

第69回ICANN会合及びICANNコミュニティの動向

~ccTLD関連の話題を中心に~

2020年10月13日から22日にかけて、第69回ICANN会合(ICANN69)がリモート参加のみの形式で開催されました。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、ICANN会合がリモート参加のみの形式で開催されるのは、第67回及び第68回ICANN会合に続き3度目となります。本会合は、当初ドイツのハンブルクで開催される予定でしたが、ICANN理事会は、ICANNコミュニティの健康と安全を常に最優先事項とし、現段階ではICANNのような大規模な国際会議を対面形式で実施することは難しいと判断しました[*1]。一方で、ICANN理事会は対面での交流の重要性を十分に認識しており、対面形式でのICANN会合への復帰に向けて支持組織(Supporting Organization:SO)や諮問委員会(Advisory Committee:AC)に対し広く意見を募りながら協議を進めています。

[*1]
ICANN69 to be Held as Virtual Public Meeting
https://www.icann.org/news/announcement-2020-06-11-en

年に3回開催されるICANN会合のうち3回目に当たる本会合は「Virtual Annual General Meeting」と称され、「ICANNの年次総会(Annual General Meeting)」[*2]をリモート開催で行うこととなりました。

[*2]
ICANN会合は、規模や内容の異なる三つの形式(MEETING A~C)をローテーションして開催されます。「ICANNの年次総会」はMEETING Cに該当します。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿ってご紹介します。

  • ccTLD関連の話題
    - ccNSO評議委員の任期への上限設定に関する意見調査
    - ccNSO評議委員の改選
    - ccNSOから選出するICANN理事の改選
    - 新型コロナウイルス感染症の影響下におけるccTLDの動向
  • gTLD関連の話題
    - ドメイン名業界における基礎情報及び多様なビジネスモデル
  • その他の話題
    - ルートDNSサーバーのガバナンスに関する話題
    - 技術関連セッションから
    - JPRSの堀田博文がICANN 22nd Annual General Meetingで表彰

ccTLD関連の話題

ccNSO評議委員の任期への上限設定に関する意見調査

2020年10月13日に開催されたccNSO会合では、ccNSOにおける今後のガバナンス体制[*3]の在り方をテーマとし、参加者による意見交換が行われました。

[*3]
ccNSOのガバナンス体制は、主にICANNの定款(ICANN Bylaws)の第10条に基づき管理されています。
https://www.icann.org/resources/pages/governance/bylaws-en

ccNSOは、ICANN Bylawsに記された事項とは別に、運営に関する独自の内部規則を定めています。この内部規則は、ccNSOが設立した2004年に定められた内容を踏襲していますが、一方で、ccNSOを取り巻く環境は16年間の中で大きく変化してきました。例えば、設立時は42だったccNSO会員数は2020年11月現在、172まで増加しています。組織が拡大し、メンバーの多様化が進む中で、ccNSOの運営方法も見直しが求められるようになりました。このような背景から、本セッションではccNSOにおける今後のガバナンス体制の在り方について、セッション参加者全員を対象にした意見調査が行われました。

意見調査では、ccNSO評議委員の任期に関するトピックがありました。現在、ccNSO評議委員は任期の上限が設けられていないことを受け、本セッションの参加者からは、「より多くのccNSO会員に評議委員に就任する機会を与え、組織の中に新しい意見を取り入れていくべきである」という考えのもと、評議委員の任期については、「上限を設けるべき」「具体的な上限は、9年(3年×3期)もしくは6年(3年×2期)が良い」という意見が多く挙がりました。

ccNSO評議委員の改選

本会合では、2021年3月の次回ICANN会合をもって任期満了となる、各地域を代表するccNSO評議委員3名のうち1名の改選選挙に向け、立候補者との質疑応答が実施されました。

ccNSOの評議委員を構成するICANNが定めた五つの地域区分のうち、今回はすべての地域において現職が立候補していないため、5名全員が入れ替わることとなります。なお、選挙は立候補者が3名であったアジア太平洋地域のみ行われ、その他の地域においては、1枠に対し立候補者が1名であるため選挙は実施されず、ccNSO評議委員会による承認のみで確定する予定となっています。なお、本選挙の投票は2020年11月3日から開始しています。

 [地域]               [現]         [立候補者]
  • 北米地域           : Byron Holland(.ca)   Sean Copeland(.vi)

  • ラテンアメリカ及びカリブ地域  : Margarita Valdes(.cl)  Jenifer Lopez(.pa)

  • アジア太平洋地域       : Young Eum Lee(.kr)   Anil Kumar Jain(.in)
                             Boyoung Kim(.kr)
                             Jiankang Yao(.cn)

  • ヨーロッパ地域          : Katrina Sataki(.lv)    Irina Danelia(.ru)

  • アフリカ地域          : Abdalla Omari(.ke)   Hadji Mmadi Ali(.km)

ccNSOから選出するICANN理事の改選

ICANN理事会[*4]は、広範囲な地域・分野からの代表20名によって構成され、開かれた透明性のあるプロセスに基づいて意思決定を行います。ICANN理事には、ccNSOが選出した理事の席が二つ設けられており、2020年10月15日に、2021年の年次総会から新たに3年の任期を務めることになる理事候補者に対する質疑応答セッションが行われました。


今回は、ccNSO評議委員会の議長であるKatrina Sataki氏が立候補しています。1枠に対して1名の立候補であったことから、本セッションではSataki氏に対する質疑応答が行われました。Sataki氏は、セッションを通じて、ccNSOのチェアとしてのこれまでの取り組みの成果を披露すると共に、ICANN理事になることに対する強い意欲を示しました。なお、信任投票は2020年11月4日より開始しています。

新型コロナウイルス感染症の影響下におけるccTLDの動向

2020年10月14日に開催された「The impact of COVID-19: the ccTLD experience」は、新型コロナウイルス感染症がccTLDのビジネス面に与える影響をテーマとして取り上げたセッションです。本セッションでは、コロナ禍において各ccTLDが直面している状況が共有された上で、さまざまなアイデアや意見交換が行われました。本セッションの議長はJPRSの高松百合が務め、全体の取りまとめを行いました。

セッションは二部構成となっており、Part1で動向及び施策について紹介し、Part2ではPart1で紹介された動向や施策について、参加者全体でのパネルディスカッションが実施されました。

Part1ではCENTRの事務局及び四つのccTLD(.sn、.ie、.tw、.gt)のレジストリがプレゼンターとなり、各ccTLDの登録数における動向及び実施した施策について紹介しました。すべてのプレゼンターから、ccTLDの登録数は維持または増加傾向が観測されたとの報告がありました。その主な要因として、オンラインビジネスを開始する企業が増加していることが挙げられました。

Part2では、Part1で紹介された内容について議論を深めるべく、パネルディスカッションが行われました。コロナ禍におけるドメイン名の登録数増加に関しては、多くのccTLDレジストリが「今後も継続する可能性が高い」と予測した上で、中小企業を中心に業務のデジタル化を進める必要があると指摘しました。また、登録者を対象とした、ドメイン名やWebサイトに関する認識の向上を目的とした資料の準備や、SNSを活用してプロモーションに関する情報発信などを実施しているccTLDレジストリが、各自の施策を紹介しました。

収束の目途が立たないコロナ禍において、それぞれのccTLDレジストリが、各自模索しながら対応を進めていました。このような状況でさまざまなアイデアや意見が共有された本セッションを、参加者は有意義であったと称賛しました。

「The impact of COVID-19: the ccTLD experience」のセッションで議長を務めたJPRS高松(右上)

gTLD関連の話題

ドメイン名業界における基礎情報及び多様なビジネスモデル

2020年10月19日に開催された全体会議であるプレナリー会合「The Domain Name Business: Everything You Want to Know, Ask or Discuss」は、GNSOのレジストリ部会とレジストラ部会が中心となり企画したセッションです。両部会は、ICANNコミュニティの中にはドメイン名の登録やDNS運用に直接携わっていない関係者も多く、コミュニティ全体でレジストリやレジストラについて正しく理解を深めることが、さまざまな議論の前提として重要であるという課題意識を持っていました。これを受け、本セッションは業界の基礎情報をICANNコミュニティ全体で正しく認識することを目的として開催されました。

まず、ICANN設立時の状況からTLDの追加に至るまでの歴史的経緯やgTLDとccTLDの概要や市場の動向など、業界の基礎情報が紹介されました。次に、異なるビジネスモデルを展開する以下のレジストリ及びレジストラが、各社の施策や発展の要因について、具体的な数値を交えて紹介しました。また、レジストラは、市場の発展に加えて、ドメイン名不正使用へのアプローチなどについても取り上げました。

  [発表組織]        [カテゴリ]
  • .art       : 登録資格を限定したTLD
  • FOX      : ブランドTLD
  • GeoTLD Group  : 地理的名称TLD
  • Tucows             : ホールセールレジストラ(リセラー専業)
  • Mark Monitor    : コーポレートレジストラ(知的財産関連事業者)

その他の話題

ルートDNSサーバーのガバナンスに関する話題

RSSAC[*5]、RSSAC Caucus、及びRSS GWG[*6]は、普段から会合を定期的に開催しています。第69回ICANN会合では、これらの会合がプログラムに組み込まれる形で開催されました。

[*5]
Root Server System Advisory Committee(ルートサーバーシステム諮問委員会)の略称。ICANNの諮問委員会の一つで、ICANN理事会に対し、ルートDNSサーバーシステムのオペレーションに関する助言を行う役割を担います。RSSACのメンバーは各ルートサーバーの運用管理者及びルートゾーンの管理に関わる関係者などで構成され、JPRSの堀田博文がMルートサーバー運用組織の代表の一人として参加しています。
[*6]
Root Server System Governance Working Group(ルートサーバーシステムガバナンス作業部会)の略称。RSSAC037[*7]で示されたルートサーバーシステムのガバナンス体制の具体化のための作業部会として、2020年1月に設立されました。RSS GWGはそれぞれの関係者の立場を代表する10名のメンバーと3名のリエゾンで構成され、JPRSの堀田博文がルートサーバーオペレーター(RSO)の代表の一人として参加しています。
[*7]
ルートDNSサーバーの新たなガバナンスモデルとして、RSSACから提案された文書です。RSSAC037では、インターネットの発展が急速に進む中で、ルートDNSサーバーの運営組織として、その信頼性と継続性を守ることに重点が置かれています。
「RSSAC037 A Proposed Governance Model for the DNS Root Server System」
https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-037-15jun18-en.pdf

RSS GWGはこれまでに、ICANN配下に新たな子会社を作り、その子会社がルートサーバーシステム全体のサービスを統括し、各RSOと契約を結ぶという形態を仮置きして検討を進めています。また、財政支援を受けたいRSOの支援方法や予算獲得方法の検討も始めました。

また、RSSACでは、RSSAC及びRSSAC Caucusにて以下の三つテーマの検討が進められています。

  • RSOが結ぶ契約のひな形
  • 世界各地でのRSSサービス品質を測定する方法
  • 「悪意あるRSO」の定義とリスクの検討

技術関連セッションから

DNSSECの発展に向けた発表・議論の場である「DNSSEC and Security Workshop」の「Changes we have made to DNSSEC in the ORG zone during 2020」と題したセッションにおいて、.orgのDNSSECの不在証明の方式を現在のNSEC3からNSECに変更することを決定した旨が発表されました。

DNSSECでは問い合わせが行われたドメイン名が存在しない場合、存在する前後の二つのドメイン名を応答し、その間にドメイン名が存在しないことを示すことで、不在を証明します。これを「不在証明」といいます[*8]。

[*8]
不在証明は、問い合わされたリソースレコードタイプが存在しないことを示す際にも使われます。本原稿では説明を省略します。

不在証明にはNSECとNSEC3の二つの方式があり、ゾーンごとにいずれか一つの方式を採用します。NSECが存在するドメイン名を直接示すのに対し、NSEC3ではドメイン名が分かりにくくなるように、計算されたハッシュ値によりドメイン名を示します。不在証明にNSEC3を用いることで、DNS問い合わせを利用して外部からドメイン名の一覧を入手する、ゾーン列挙(zone enumeration)攻撃を難しくすることができます。

.orgではDNSSECの運用開始時にゾーン情報の漏えいを懸念し、不在証明の方式としてNSEC3を採用しました。しかし、.orgは他の多くのgTLDと同様、ICANNの集約型ゾーンデータサービス(CZDS)にゾーン情報を提供しています。CZDSに提供されたゾーン情報は、承認された要求者がインターネットで入手可能な状態になるため、.orgでは今回、ゾーン情報を秘匿する必要はなくなったという判断に至りました。

また、NSEC3ではDNSSECの導入を容易にするため、DNSSECに対応していない委任先の情報を除外してDNSSEC署名する、Opt-Out機能をサポートしています。不在証明の方式をNSEC3からNSECに変更した場合、この機能が利用できなくなるため、.orgの署名の負荷が上昇することになります。しかし、.orgでは今後DNSSECに対応した委任先が増えることで、Opt-Outの有無による違いは少なくなっていくと判断し、運用上の複雑さが少なくなる、NSECへの変更を決定しました。

詳細は以下の資料をご覧ください。
「DNSSEC Algorithm Roll in .ORG: Maintenance in the Time of COVID」
https://cdn.filestackcontent.com/content=t:attachment,f:%22ICANN69-DNSSEC-Oct-2020%20(1).pdf%22/ql1ZZyd5QWS8Swe8FpSs

JPRSの堀田博文がICANN 22nd Annual General Meetingで表彰

2020年10月22日に開催された「ICANN 22nd Annual General Meeting」に組み込まれた「Community Recognition Program」では、グローバルなマルチステークホルダーコミュニティから選出された45名が、ICANNの活動への多大な貢献を称えられ、表彰されました。この中で、JPRSの堀田博文がccNSOにおけるコミュニティリーダーの一人として表彰されました[*9]。

[*9]
Recognizing ICANN Community Contributions in 2020 - ICANN
https://www.icann.org/news/blog/recognizing-icann-community-contributions-in-2020

堀田は、2004年にccNSOが設立された時からccNSO評議委員会の委員として活動し、2020年第67回ICANN会合において評議委員を退任するまで、ccNSOの先駆的な活動に貢献してきました。その16年間にわたるccNSOへの貢献が称えられ、この度の表彰に至りました[*10]。

[*10]
JPRSの堀田博文が第69回ICANN会合の年次総会でICANNから表彰
https://jprs.co.jp/press/2020/201026.html

堀田は、ccNSO評議委員退任後、引き続きMルート運用者の立場を中心にICANNの活動に参加しています。

次回のICANN会合

第70回ICANN会合は、2020年11月24日時点では、2021年3月20日から25日にかけてメキシコのカンクンで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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